マイコバクテリウム症「魚結核症、抗酸菌症」の原因、治療について

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マイコバクテリウム症「抗酸菌症」は文字通り菌のくせに酸に強い耐性をもつウイルス並みに手ごわい病気です。
酸に強いのでオキソリン酸やフラン剤、サルファ剤「GFGやエルバージュなど」といった細菌に治療効果を持つメジャーな魚病薬もほぼ効きません。
病気の特性上、進行速度が遅く症状が急激に悪化するような病気ではありませんが、尾ぐされや白点病の様に見た目に現れる症状がほとんど無いので発病したサインを見逃して手遅れになるケースが非常に多いです。
結論から言うと現状で専用の治療薬はありませんが、治療効果が見込める方法はありますので、この記事で後述しています。

マイコバクテリウム症とは

魚類では魚結核症や抗酸菌症、人ではプール肉芽腫と呼ばれることがある難治性疾患です。

マイコバクテリウム症をざっくり分けると、結核菌が原因で感染するものを抗酸菌症、結核菌以外が原因で感染するものを非結核性抗酸菌と呼びます。

結核菌「Mycobacterium marinum」による感染は臓器に肉芽腫が多発しながら進行し癌が転移、重症化すると治療困難となる難治疾患です。

一方の非結核性抗酸菌「atypical mycobacteria」による感染は重症化すると同じく治療が困難ですが、ごく初期の感染時点で気づければ、進行を食い止めやすいです。

Kyo
Kyo

非結核性抗酸菌は従来の病名で非定型抗酸菌症と呼ばれていたものです。

どちらとも数か月かけて、ゆっくりと進行していきますが、病状が進むにつれ治療が困難になります。感染してから早急に☆になることは無いですが、初期では症状が出にくく健康魚と大差ないことが多いので飼育者が異変に気付いた時には、重症化していることが多いです。

そのため予防が最重要になります。保菌、発症させないためには、体表やヒレに傷口を作らないこと、腐敗したエサを食べさせないこと、毎日飼育魚の健康チェックを怠らないことが大事になります。
詳しくは原因の項目で記載しています。

Kyo
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病気感染の予防には水換えの注水時にファインバブルを使うのがオススメです。ファインバブルには溶存酸素量の豊富な供給、雑菌や寄生虫の減少、水質浄化に効果があることが報告されています。

続いて、すでに症状が出ている、感染している可能性が高いと判断した場合は、後述している内容を参考に読んでみてください。

マイコバクテリウム症で見られる症状について

抗酸菌症、非結核性抗酸菌症ともに見られやすい症状を記載しています。

外見症状「肉眼的所見」

進行が進むと餌をしっかり食べていても全体的に痩せていく、体色が薄くなる、少し~中等度の眼の突出、皮膚が荒れる・潰瘍が出来るが、抗酸菌症特有の症状が無いため診断の確定が難しい。

末期になると腹部の異常な腫れor痩せ、肛門の発赤・ただれ・開口、エラに極小で無数の黒点が見られるが、ここまで進行すると治癒困難な場合が多い。

内部症状「組織学的所見」

「腹腔内に血液混じりの腹水貯留、腹腔壁・内膜、各臓器に無数の粟粒状結節が形成、癒着がみられる。」
病気の進行はゆっくりだが、「肝、腎など造血組織で細胞が侵襲を受け徐々に破壊され、腎臓では腎細尿管、糸球体等も破壊されていく」ため、いずれ生存することが出来なくなる。

※「」内文章引用元
1文目:Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries Vol. 34, No. 3, 1968 2文目:日本獣医畜産大学研究報告 第35号(1986年)

合併症状:ポップアイ、目の白濁、屋ぐされ・ヒレぐされ、コショウ病など
排泄物:細く細切れのフン、半透明のフン、白いフンなど

Kyo
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初期では健康魚となんら変わりなく、多くは病状が進んでから上記の様な外見症状が現れてきます。異常を感じた時点で手を打たないと末期では体内組織が崩壊し治療困難となります。

マイコバクテリウム症の原因について

正確な原因は判明していませんが、汚染水が原因と考えられています。
マイコバクテリウム症は実は健康魚には感染することは無く、衰弱した魚や既に病気感染している魚など病気への抵抗力が落ちた不調魚に感染する病気です。
つまり不調になった魚が日和見感染して発症する病気です。

硝酸塩が多くたまった飼育水や苔がたくさん生えた水槽、溶存酸素が少ない水、濾過不十分な水など飼育水が汚れる原因になるものは全てマイコバクテリウム症の感染リスクを増やしてしまいます。

よくありがちなのが水換えは定期的にしているが濾過槽掃除をしていない、ウールやマットは交換しているが濾材は交換していないなどがあります。
濾材の交換時期に関しても飼育数やエサの種類や与える量、飼育魚の大きさなど様々な飼育環境によって交換時期は早まるので、記載されている交換時期よりも早めに交換したり、軽くゆすいで目詰まりを取り除いたりなど、まめに管理してあげるようにしてあげましょう。

マイコバクテリウム症の感染経路

結核菌も非結核性抗酸菌も経口感染が最も多く、次いで体表の傷口や裂けたヒレ、寄生虫を介して感染することもあります。

・底に落ちて古くなっている腐敗したエサを食べて感染した
・水槽壁の掃除をして飼育水中に雑菌が広がった
・濾過槽内に腐敗物が蓄積、目詰まりして細菌の温床になったなど

上記は病気感染する原因でよくあるケースです。

抗酸菌と同じ病気と勘違いされやすい非結核性抗酸菌としては魚類では主に3種類あり

M.chelonae
M.fortuitum
M.marinum

上記3つに分けられます。

M.fortuitumは熱に強く、37度以上でも生存しますが、他2つは37度以上では活動できなくなります。
ちなみに37度以上で活動停止しますが、35度でも発育速度が低下し活動しにくくなります。

このうちM.marinumのみ淡水魚・海水魚の両方とも感染がみられます。
魚類だけでなく人にも感染する病気として有名で、通称プール肉芽種や水族館病と呼ばれます。
魚から飼育者に直接感染することは無い様ですが、皮膚にケガや手荒れなど傷口があると、そこから菌が侵入し人間にも感染することがあります。
ただ変温動物の魚と違って、哺乳類である人の体内温度は常に36~37度以上ある為、皮膚症状までにとどまり、全身症状が出ることや重症化することはほぼありません。 しかし飼育者が感染した場合は楽観視せず、早急に病院を受診してくださいね。

有効とされている治療法「2022年現時点」

抗酸菌か非結核性かによって有効薬が違ってきます。
まずは、それぞれに有効とされている魚病薬とその効果を紹介します。

抗酸菌症に有効とされている魚病薬

抗酸菌には水産用OTC「テラマイシン」が治療に有効とされています。

有効含有成分はテトラサイクリン系抗生物質であるオキシテトラサイクリン塩酸塩です。
魚類の研究論文でも抗生物質による治癒報告例が複数あり、VAN DUJNの結核症についての治療実験やCONROYの経口投与による治療実験でも回復例が報告されています。※1

治療方法例

「VAN DUJN:動物用テラマイシンを水1,000ccに227mgの割合で加えた水槽に病魚を3日間収容後、水換えで経過観察したところ、この1回の処置で体色、食欲、游泳状態等が正常に回復し、さらに同じ処置を2回以上の反復により病状消失したという。」
「CONROY:粉末餌料にカナマイシンを0.01%の割合で加えて経口投与し、すべての病魚は速かにかつ永久的治癒が見られたと報告。」

※「」内文章引用元:Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries  Vol. 34, No. 3, 1968 淡 水 魚 類 の 細 菌 性 疾 病p233 保科 利一

Kyo
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ちなみに症状がよく似ていて誤診しやすいエロモナス感染症もテトラサイクリン系の抗生物質が治療に有効です。

非結核性抗酸菌症に有効とされている魚病薬

非結核性抗酸菌「atypical mycobacteria」にはキノロン系やマクロライド系の抗生物質が治療に使われ効果があると言われています。

マクロライド系抗生物質としては水産用エリスロマイシン20%散「KS」、キノロン系抗生物質には水産用オキソリン酸10%散「KS」が水産用魚病薬としてよく使われています。
両方とも共立製薬さんから販売されているもので、マクロライド系はグラム陽性菌と一部のグラム陰性菌に、キノロン系はグラム陰性菌と一部のグラム陽性菌に抗菌作用が働きます。

Kyo
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エリスロマイシンはレンサ球菌症に、オキソリン酸はカラムナリス菌が原因のせっそう病「強い尾ぐされ症状」にも治療効果があります。

これら紹介した水産用魚病薬ですが、数年前の薬事法改定による影響で個人の購入が出来なくなりました。
現在入手するには水産業者や獣医師など関係者の証明が必要となり、個人購入ができません。
なので入手するには、近隣の動物病院の獣医師さんに相談し、処方を出してもらう様にしてください。

Kyo
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ちなみにマイコバクテリウム症の原因菌の分類分け診断は病理検査を行わなければ見た目上での特定は困難です。可能であれば診断してもらいましょう。

各水産用魚病薬の使用量や使い方は共立製薬HPに説明書きがあるけど、処方を出してくれた獣医師さんから聞いてみてね。

個人で行う治療手順としては、まずはテトラサイクリン系抗生物質を経口摂取させ1~2週間様子を見ます。この期間に回復に向かう様であれば治療を継続させます。

効果が全くみられない場合は、マクロライド系、キノロン系の魚病薬を経口摂取させ様子見します。

エロモナス症やカラムナリス症であれば、上記の治療で治ると思いますが、両方試しても治療効果が全くみられなかった場合は、最終手段として冷水浴での治療を行います。

重症魚に対する冷水浴「低水温療法」について
金魚、メダカ、鯉など冷水に耐え冬越できる様な魚種であれば冷水浴が末期の重症魚でも治る希望が持てる治療法です。

詳しくは別記事に紹介しているので参照ください。

治療困難な病魚に行う最後の切り札「低水温療法」について
魚病の末期や病気の複合感染、エサも食べられなくなったなど回復の望みが低くなって不安なアクアリストに贈る奥の手「低水温療法」の紹介です。

難治性疾患や多くの重症魚に使える最終手段的な方法で、魚病薬というよりは病原菌の活動を停止させ今以上に症状を進行させないようにする治療法です。

まだ魚類本来の免疫機能回復力が残っているならば、病状が出ていない間に、自己回復力で元気になっていける可能性があります。

Kyo
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低水温「8度以下」にすることで魚が冬眠状態になり、体力温存、日頃活動消費しているエネルギーを回復に使うことができます。

マイコバクテリウム症の活動できる水温は12度~35度程度なので、10度以下の低水温にすれば活動や発育することが出来なくなり、休眠状態になり病気の進行を止められます。

室内飼育では冬場であっても常に水温10度以下にすることは難しい為、治療には水槽用クーラーが必須になります。

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どの治療薬も効果が無い、治す手段が見つからない場合は、ぜひ別記事を参考に低水温療法を行ってみてください。

kyo
kyo

低水温療法は滅菌が目的ではなく、病気の進行を止めている間に病魚を自己免疫力で元気に回復させることに重点を置いた治療法です。そのため病気の進行を止めても回復できないほど衰弱しきった病魚には治療効果が得られないこともあります。

注意点!

低水温療法で元気になって回復し治療終了しても、水槽内の水温を20度以上に戻さないでください。細菌の活動が停止しているといっても休眠しているだけなので、活動できる温度になると病原菌も復活し再感染を起こす危険性があります。

病原菌は水槽壁、装飾品、底砂、各ホースやパイプに至るまで、あらゆる場所に付着して眠っているので、回復した飼育魚を水ごと別容器に移し、治療していた水槽と全ての器具を徹底洗浄する必要があります。

洗浄には逆性石鹸「ベンザルコニウム塩化物液」を使います。
第3医薬品で、誰でも買うことができるので安心してください。

手を洗う石けんとは全くの別物なので、飼育器具の洗浄に使用しても問題ありません。
ただ洗浄後は、液が残らない様に、しっかりと洗い落としてから水槽や飼育器具を使ってください。

洗浄方法としてはスポンジなどに染みこませて、飼育器具一式、水槽のありとあらゆる場所を洗います。洗える手の届く場所は細部に至るまで全て徹底的に洗浄してください。

注意点としては、逆性石鹸は手術用器具の消毒など医療現場でも使われている消毒医薬品なので、素手だと手荒れを起こします。必ずゴム手袋を装着して掃除してくださいね。

kyo
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マイコバクテリウム症は手に傷口があると人にも感染するので、ゴム手袋を履いておくと感染も防げて一石二鳥です。

治療おまけ

あまりオススメ出来る方法ではありませんが、アロアナやポリプテルス属など高水温に強い淡水魚であれば、数日間高水温「35度以上」にして治療する方法もあります。

マイコバクテリア症の原因菌のほとんどは発育温度12度~33度前後「特に25度~30度は菌が活発に発育する」です。
34度以上で活動停止がみられ、37度以上では2日以内に菌が死滅するという報告データも見たことがあるので、3日ほど35度以上の高水温で飼育するのも治療手段としてありかもしれません。

治癒効果が高い方法ではありますが、同時にリスクも高い方法なので、どうしても治す手段が無い場合は治療手段として考えてもいいかもしれません。
ただ実施する場合は自己責任でお願いします。

他魚に感染するかどうかについて

賛否ある内容ですが、個人としては感染菌の種類によると思います。
というのもマイコバクテリウムは非結核性抗酸菌症を細かく分けると40種類以上もあるため、原因菌の型により他魚感染したり、しなかったりします。
なので一概には言えませんが、エロモナス感染症やカラムナリス症の様に感染力が強いものでは無さそうです。

Kyo
Kyo

しかし病原体の特定が出来ないため、病魚を見つけた場合は健康魚と必ず隔離し同じ水槽内で泳がせない様にしてください。また感染魚を見つけた場合、同じ環境下の水槽であれば病原菌が水中にいる為、十分他魚も感染する可能性があるので、環境の見直し、再設定し感染予防に努めてください。

予防法

とにかく飼育水を汚さないこと!これが最大の予防です。 飼育水を汚さないというのは、定期的に水換え、濾過槽掃除をする、コケが生えてきたら増えない様にすぐに除去するなど雑菌の隠れ場所を作らないことをここでは言います。

水換えをサボらない&濾過槽掃除をサボらない

吸水パイプに吸い込まれない様に毎日食べ残しを出させない、フンを小まめに取り除くなど水質管理が出来ている場合は、濾過槽が汚れないので、毎週の水換えは不要になりますが、そうでない場合は収容魚数に合った水換えが定期的に必要です。

何か月もサボって汚染し古くなった水でも緩やかな悪化であれば殆どの淡水魚は適応できます。しかしその状態で水量の多い水換え、久しぶりの濾過槽掃除などすると一気に水質が急変しPHショックを起こす、目詰まりの中で温床していた雑菌が吹き出し様々な病気に複合感染するため、定期的に掃除を行わなければなりません。

濾過槽が目詰まりなくキレイであれば通水性が良く水質が維持しやすくなる他にも、病気感染した場合に使う魚病薬の効き目も飛躍的に上がるので、定期的にメンテナンスしてあげましょう。

コケを生やさない、増やさない!

見落としやすい穴がコケです!
コケは病気と関係ないように見えますが、雑菌の温床です。
コケ自体は、ただの水生植物ですが、コケの中に無数のありとあらゆる病原菌が住み着くので、コケ=病原菌と思っても良いくらいだとKyoは思っています。

コケは見栄えが悪くなってきて初めて掃除にとりかかる人が多いですが、水槽をびっしり覆ったコケを掃除することは水槽中に無数の菌をまき散らしているのと同じことなので、コケは少しの量でも見かけたら取り除くようにしましょう。

ちなみに飼育水槽がアクリルの場合はコケ掃除で、めちゃくちゃ傷をつけてしまうので、スポンジでこするか、アクリル水槽でもOKなスクレ―パーで除去する様にしましょう。

上記の商品であれば、アクリルでも傷がつきません。
商品の説明欄でも、アクリル水槽にも使用出来ることがしっかり記載されているので、安心です。

残った餌や排泄物は毎日取り除く

水換えや濾過槽掃除を定期的に行っていても水質が汚れやすいケースで考えられるのは、エサの食べ残しや排泄物「フンなど」が水槽底に沈殿して腐敗していることがよくあるケースです。

そして餌の食べ残しが何日も水槽底に落ちていると飼育魚はそれを突いて食べる為、古く腐敗したものが体内に入り、食べた腐敗物から病気感染を起こすことも多いです。
マイコバクテリウム症は経口感染が最も多いという理由は、ここからもきています。
水質を良好に保つ意味でも病気感染を防ぐ意味でも、食べ残った餌は小まめに取り除いて飼育魚が腐敗物を食べない様にしてあげてください。

まとめ

・マイコバクテリウム症をざっくり分けると、抗酸菌症、非結核性抗酸菌症に分けられる

・酸に強くエルバージュやGFGなど抗菌剤が効きにくい

・治療には水産用の抗生物質が効果あり、最終手段としては低水温療法で菌の活動を止めている間に治癒回復させる方法がある

・傷口があると人にも感染するため、触れる際は防水手袋を履いたうえで処置や洗浄を行う

・予防としては、とにかく飼育水を汚さない様にすること
水換えや濾過槽掃除をサボらない、食べ残した餌や排泄物は小まめに除去するなど
コケは菌の温床になるので、増える前に除去する

マイコバクテリウム症「抗酸菌症」は治療の難しい魚病ではありますが、不治の病ではありません。
なので、この記事を参考に少しでも病気に抗ってみてください。
どんな病気でも感染させない環境を作ることが一番であり、感染が疑われる場合は1秒でも早く治療してあげることが大事です。
大切な愛魚が病気になった際は、特徴や症状をよく調べて、ぜひ元気にしてあげてくださいね(^^♪

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